エンドロールが流れる

1)

帰宅してテレビをつける頃に都合よく放送している深夜ドラマを見るともなく見ている。既視感のある話だ。主人公の女子社員をめぐる三角関係。30分の間に仕事に恋愛と目まぐるしい。エピソードの終盤、残業を押し付けられて暗いオフィスで一人パソコンに向かう主人公。こんな暗いオフィスで仕事をするのはドラマだけだよなとKは思う。今日はおれがオフィスの明かりを消して、セキュリティをかけて出たのだ。一日働いたワイシャツが臭う。ソファーに座るのが汚く思えて給湯機のスイッチを入れ、蛇口をひねり水をためる。電子レンジにコンビニで買った弁当を入れて温める。テレビに目をやると主人公の首元に缶コーヒーが差し出されエンドロールが流れ始めた。衝撃のあいつがまさかのアプローチ。驚きを隠せない主人公。ギターのイントロが流れ、歌い上げるサビと共にエンドロールが流れ、次回予告を挟んでCMに入った。続くバラエティが始まるころ、Kはチャーハンを5分もかけずに食べ終えた。風呂も沸いた頃だ。

 

2)

ラジオからパーソナリティの陽気な声が流れる。トップ100から始まったヒットチャートが20位を過ぎるころ、Kの運転する軽自動車はホームセンターの駐車場に停車した。熱中症患者が続出しそうな炎天下、日除けのシートをフロンドガラスに貼って社外に出るか一瞬迷ったが、財布とメモを取り店内に入る。手早く洗剤やごみ袋をカートに入れ、15分もせず店を出る。駐車場を抜け手近な昼食の取れる店を探しながら、交差点を右折するためウインカーをかけたのと同時に、ラジオがトップ3を告げ、聞き覚えのあるギターのイントロが流れる。ハンドルを右に切って侵入すると、対向車線のトラックが目の前に現れ、気づけば助手席がひしゃげ、持っているハンドルと左手が奇妙に圧し潰され、ガラスと金属のきしむ轟音が聞こえ、体が大きく投げ出されるような気がした直後に、Kは横転した車を背後に炎天下の国道を素足で歩いていた。不思議とすべてが白けて映り、まるで現実味がなく、アスファルトから立ち上る湯気すら見える中、Kは進んでいく体を止めることができない。ギターのイントロがどこかから聞こえる。Kはエンドロールが流れる予感がしている。終わらないでほしい。恐怖に似た切望が迫る。